マイクロ版・CD-ROM版・DVD版近代文学館について

第一高等学校 校友会雑誌とは(DVD版)

刊行にあたって

『校友会雑誌』(旧制第一高等学校校友会発行)を複刻・刊行すべきではないかと日本近代文学館の理事会で問題提起されたのは、数年前に遡る。その後八木書店と提携、同書店が製作、発売の準備をすすめていたところ、一高同窓会としても同様の計画があることを承知した。そこで日本近代文学館としては従来から複刻・刊行してきたDVD版近代文学館の一冊として刊行したいと申し入れ、一高同窓会も快く私たち日本近代文学館の志を理解し、すすんで資料、情報等を提供して下さって、刊行に至ったのである。まず、刊行にあたって一高同窓会に心からお礼を申し上げたい。

日本近代文学館が、『校友会雑誌』の複刻・刊行を企図したのは、いうまでもなく、後に大成した、わが国を代表する文学者たちの処女作がじつに数多く発表されているからである。たとえば、川端康成の『伊豆の踊子』の原素材ともいうべき作品『ちよ』が発表されているし、谷崎潤一郎らから神西清、堀辰雄、高見順らの世代を経て、福永武彦、中村眞一郎、加藤周一、清岡卓行らに至るまで、彼らの業績の出発点ともいうべき作品がじつに数多く掲載され、彼らの文学を解明する鍵を提供しているのであり、しかも、これらの大部分は埋もれたままになっていたのである。

加えて、当時の旧制一高には天下の俊才をもって自負した若者達が蝟集し、切磋琢磨していた。彼らにエリート臭が目立つことはあっても、明治23年から昭和19年に至るまで、そうした俊才たちが、時代に対峙し、時代と共に悩み、その中で自己を確立していったのであった。そういう若者達を例示すれば、石原謙、阿部次郎、和辻哲郎、倉田百三、谷川徹三、林達夫、羽仁五郎等々であって、これまた枚挙に遑がない。このようにみてくると、『校友会雑誌』は、明治23年から昭和19年に至る波瀾と動揺の時期に青春期を過ごしたわが国における、卓抜な若者たちの精神史ということができよう。

八木書店の全面的協力により刊行をみたDVD版『校友会雑誌』はたんに日本近代文学の研究者にとって貴重であるばかりでなく、わが国近代精神史の研究の必須の資料となるにちがいない。

     2005年8月20日

財団法人日本近代文学館
理事長中村稔